2016年11月23日水曜日

漱石と古典


 きのうは、東京エフエム内にある、衛星放送局ミュージックバードまで、番組収録に行ってきた。番組の企画とお相手は、同局の名プロデューサで、『謹訳源氏物語』の全巻録音などのプロデュースをして下さった田中美登里さん。もう二十年来の付き合いで、いわば気心の知れた「相棒」というところである。写真左の赤いセーターを着ているのが、その田中プロデューサである。田中さんとは、以前、『リンボウ先生の音楽晩餐会』と『リンボウ先生の歌の翼に』という一連の音楽朗読番組を何年も御一緒したのである。
 今回は、漱石没後100年、生誕150年という記念の番組で、十年前に私が全巻朗読してピア出版から出版したCDブック『夢十夜』を、完全放送してくださるというのが目玉であったが、同時に、「語る文学」として、『謹訳源氏物語』『謹訳平家物語』にも光を当てていただき、おおくの生朗読を交えて三時間の放送を収録してきたのである。漱石では、『吾輩は猫である』『坊ちゃん』『草枕』のなかから朗読をした。
 この放送は、次のとおりである。

MUSICBIRD THE CLASSIC(121ch)
「ウィークエンド・スペシャル」
2016年12月4(日)19時〜23 再放送:12月10日(土)12時〜16
夏目漱石没後100年&生誕150年記念
~リンボウ先生が読む『夢十夜』(『源氏』も『平家』も)
ゲスト:林望(作家、国文学者) 聞き手:田中美登里
 
MUSICBIRDTOKYO FMグループの高音質CS衛星デジタル音楽放送。
クラシック、ジャズなどジャンル別に多数のチャンネルがあり、   
これを聴くには専用のチューナーとアンテナが必要。
お問合せは0332219000

 ぜひ、いちどお聞きいただきたく、ここに御案内申し上げる次第であります。


2016年11月21日月曜日

謹訳平家物語完結


 申し遅れました。
 すでに、十一月の頭に、かねて刊行中であった『謹訳平家物語』の最終第四巻が刊行となり、これにて、本作は完結となりました。
 第四巻は、いよいよ大詰め、壇ノ浦で平家が滅亡し、その一族がみな滅ぼされるまでを描き、副次的に義経が頼朝に追われる身となる話もここに描かれます。
 そうして、一番最後に『灌頂の巻』が置かれて、壇ノ浦で生き残った建礼門院が、大原野寂光院に隠棲して念仏三昧の寂しい暮しのなか、後白河法皇が突如訪ねてくる物語が、しみじみとかたられて、さしも長い物語もここに終焉を迎えます。物語全体のなかでも、格別に味わい深いのがこの第四巻に収められた巻十から十二、並びに灌頂の巻であります。
 平家一族の亡魂への鎮魂の物語と言っても良い本作は、私が高校生の頃から愛読に愛読を重ね、心を込めて訳述したもので、ぜひぜひ、ぜひぜひ、多くの方々に読んでいただきたい、それも黙読ではなくて、音読で、しかも聴き手を前にしての朗読で読んでいただけると、もっともよく味わいがわかるだろうと思います。産経新聞の書評欄に、中島誠之助先生が、素晴らしい書評を書いてくださいましたし、また読売・毎日両新聞の書評欄にも著者インタビューが出たところです。合わせて御一読のほどお願いいたします。
 またもと雑誌ミセスの編集長だった岡崎成美(おかざき・しげみ)君が、この作品についてのインタビュー動画(Ⅰ・Ⅱ)を作って、彼自身のフェイスブックにアップしてくれました。こちらもぜひ検索のうえ、ご一瞥くださいますと嬉しく存じます。
 動画や書評は次のサイトでご覧下さい。

↓岡崎成美さんのフェイスブック

https://www.facebook.com/shigemi.okazaki.3?ref=br_rs

↓岡崎成美さんのツイッター(ツイッターでも、動画はご覧になれます)

https://twitter.com/mrsokazaki

↓産経ニュース 〔書評倶楽部〕 中島誠之助さん書評 

http://www.sankei.com/life/news/161119/lif1611190028-n1.html

↓毎日新聞 「今週の本棚」

http://mainichi.jp/articles/20161120/ddm/015/070/030000c

金沢のコンサート


 錦秋もそろそろ終わりになり、山々はすっかり冬化粧になりました。
 さるなか、昨日十一月二十日は、シェア金沢という福祉施設内のライブハウスMOCKにて、北山吉明先生とのデュエット「Duo Dottorale」のコンサートをやってきました。今回は『母の教へ給ひし歌』というテーマで、懐かしい叙情歌や昔流行ったドイツリートの名曲、あるいは子守歌などを北山ドクターと二人で14曲ほど熱唱してきました。この演奏会は、歌が大好きな北山ドクターの御母堂のために、私どもが懐かしい歌を歌って愉しんでいただく、という企画で、ご高齢の御母堂も来られて最前列で聴いておられました。私の母はすでに亡くなりましたが、母も歌が大好きであったので、きっときのうはどこかに来ていたように思います。プログラムは、
  里の秋
  蛙の笛
  野菊
  みかんの花さく丘
  故郷を離るる歌 *
  浜辺の歌
  仰げば尊し
  琵琶湖周航の歌
  鱒 ◎
  歌の翼に *
  アイルランドの子守歌(英語) ◎
  モーツァルトの子守歌
 そして、アンコールに
  朧月夜
  憧れのハワイ航路
 の二曲。*は北山ドクター独唱、◎は私の独唱。あとはすべてデュエットでした。
 なかでも、『仰げば尊し』は、新進気鋭の作曲家深見麻悠子君に嘱して私どものために新編曲してもらった男声デュエット版の初演となりました。美しい編曲で、この曲では、涙が出たという人もあったそうです。また、「鱒」「歌の翼に」の二曲は、私の訳詩の日本語版で。この訳詩版は、音楽之友社の高校音楽教科書のために私が作った訳詩で、今も高校の音楽で歌われています。いずれも原詩に忠実に、分かりやすい現代語の訳詩となっています。また「野菊」「朧月夜」は我が敬愛する作曲家上田真樹君の編曲男声二重唱譜により、「琵琶湖周航の歌」は青島広志編曲版によって歌いました。企画と司会(解説)は私が担当し、ピアノ伴奏は五味こずえ君でありました。
 コンサート終了後は直ちに帰途につき、7時間半、夜の信濃路を運転して駆け戻ってきました。良い一日でした。
  
 

2016年11月4日金曜日

親芋子芋孫芋


 いまは、ちょうど里芋の新しいのが採れる盛りで、今年も糸魚川の息子の嫁のご実家から、りっぱな里芋などをどっさりと送っていただいた。
 東京では、里芋といえば、コロコロと切り離して袋詰めにされて店頭にでているので、こういう姿の「一家」を見ることはほぼない。
 中央にドンと親芋がひかえ、その周囲にりっぱに太った子芋がいくつも付き、さらにその子芋からまた孫芋までひっついている、一家眷族まことにめでたい姿である。
 私の母などはこの親芋が好きで、よく煮て食べていたが、私はどちらかという子芋のねっとりと軟質なほうが好ましい。祖母は彦根の人で、里芋を煮るときはいつも茹でこぼしてこのぬめりを取ってから煮たそうだが、祖父は東京人で、いつも、
 「そのぬめりがオイシイんじゃないか」
 と文句を言ったそうである。私も祖父に賛成である。
 さっそく、ぬめりなど取る事なく、ねっとりと煮て食べた。まことに香りよく、柔らかで、けっこうな冬の旬菜である。

2016年11月3日木曜日

古典の日


 毎年、十一月一日は、古典の日という特別な日に指定されている。
 そのため、各地でその記念行事が催されているのだが、去年と一昨年は、東京で国文学研究資料館主催の講演会があって、私は二年連続でその記念講演をした。いずれも源氏物語についての講演で、やはり古典といえば源氏、というわけである。
 今年は、古典の日推進委員会の主催で、京都での催しがあり、これは講演だけではなくて、対談やら音楽やら、いろいろ盛りだくさんな行事であった。
 その一番最後に、基調講演というのを頼まれて、『源氏物語、そのさまざまな面白さ』という講演をしに京都まで行ってきた。例によって、車を運転して、往復十四時間。まことに普通はそういうことは思いつかないかもしれないが、鉄道嫌いの車好きの私としては、新幹線で行くよりもずっと疲れないから不思議だ。
 そのイベントに、中村勘九郎さんも出演、たまたま楽屋が隣同士だったので、この際、ミーハーよろしく、記念写真をとらせていただいた。思っていたよりもずっと背が高く、体格の立派な人だなあという印象。気さくで腰が低く、とても感じがよかった。
 もっとも、そのイベントは、あれこれ欲張りすぎて、時間が足りなくなり、どんどん押してきた結果、最後の基調講演のところを短くせよと無理難題、最初は五十五分という依頼だったのが、五十分になり、ついには四十分でやれ、というので、源氏五十四帖の浩瀚な世界を、せいぜいコンパクトにお話したところである。が、せめて一時間は頂かないと、時間が短か過ぎるなあと、遺憾な思いであった。
 講演を終えて、そのまますぐに帰京の途につき、名神ー中央高速と、通い慣れた道を通って、坦々と走り、深夜十二時ちょうどに自宅に帰り着いた。