2013年10月30日水曜日

鳥取の秋


十月の二十六日、鳥取県の北栄町図書館というところの招きで、開館20周年記念の特別講演に行ってきた。折悪しく、台風二十七号、二十八号がダブルで日本を襲う形勢であり、就中二十七号のほうはちょうど鳥取へ25日に飛ぶのにバッティングしそうで、いったいどうなることかと気をもんだが、幸いにうまくすり抜けて無事鳥取まで飛んでいくことができた。図書館でもたいそうやきもきした由、行けてよかったと、みなが胸を撫で下ろした。上の写真がその図書館での講演を終えたあと、山崎図書館長がたと閲覧室で撮った記念写真。講演には、さして広からぬ図書館の研修室に80人もの聴衆が集まってくださったのは予想外のことであった。通路まで椅子を並べてのぎっしりの満員で、熱気あふれる聴衆であった。そのあと、謹訳源氏のサイン会などもして、たくさんの方々がよろこんで謹訳を買ってくださった。
そのあと、以前「こんなステキな日本が」というNHKテレビの番組でご一緒した、地元北栄町の網元松井市三郎さんをはじめとする、網衆の皆さんが、再会を喜んで強風荒波の浜小屋で歓待の宴を催してくださったのは嬉しかった。新鮮な刺身、モクズガニの炊き込みご飯、鯵の唐揚げ、ふぐの唐揚げなど、海の幸が並んですばらしくおいしいのであった。この網衆のなかに、もと国語教諭で、北栄図書館で源氏物語講座を続けておられる田村禎之先生も参加しておられて、源氏と地引き網と、珍しい取り合わせの鳥取の旅となった。
翌日はよい天気で、鳥取市の南方の山道をたどり、至る所の秋景色を満喫してきた。こういうとき私はいつも地図を買って、その地図を眺めながら、どこらへんをさまよったら、いい景色やめずらしい食べ物・人情などに触れられるだろうと想像をめぐらす。今回は、千代川(せんだいがわ)上流域の支流、曳田川源頭三滝渓谷、小河内川沿いの山間部、さらに佐治川に沿って、あちこちと山道を走り回った。どこも小国寡民という雰囲気の桃源郷のような山里であった。途中遠足市場のオーガニック・マルシェという市に遭遇して、ひとりお茶など楽しんでもきた。

2013年10月22日火曜日

浜松市民フォーラム


19日、20日と、一泊二日で、浜松へ行ってきた。
浜松に「子供をタバコから守る会」という市民団体があって、ご当地で内科を開業している加藤一晴先生という内科医が、この運動の中心となっている。
実際、浜松市長の鈴木康友さんは、わが慶応義塾の塾員でありながら、タバコの害から市民を守るという意識はいっこうに希薄で、こういうフォーラムに参加することはまずないし、副市長などが出てくることも絶えてない。それどころか保健所長の参加もないのだから浜松市は遅れていると言わねばならぬ。ただ、私は浜松市歌を作詩したご縁で、浜松市の「やらまいか大使」というものに任ぜられているので、こういうことにもの申す権利があるというものだ。
今回は、脱原発運動の先頭に立っていることでも良く知られている、三上元湖西市長をゲストにお招きして、私の基調講演のあと、三上市長の講話、そして内山隆司会計士との鼎談を交えて、タバコの害を撲滅すべきことを熱烈に語ってきた。
下の写真は、地元の小学生たちで、タバコがいかに迷惑なものであるか、そしてタバコのない社会を希求する志について、理路整然と見事なスピーチを披露してくれた。こういう子供たちが将来を担ってくれることに、大いに期待したい。また右側に立っておられるのは、静岡市保健所長の加治正行医師で、淡々と穏やかな口調ながら、決然たる志を述べられた。すこしずつでも禁煙、そして受動喫煙撲滅への運動が結実していくことを願う。

2013年10月18日金曜日

あらえびす記念館


去る十月十三日は、岩手県紫波町の「あらえびす記念館」で、講演とコンサートをしてきた。あらえびすでの公演は、これで三度目。いつもわが敬愛する嶺貞子先生が御声をかけてくださるので、よろこんでお供するという次第である。今回は、とくに『謹訳源氏物語』の完結を記念しての講演であったので、かたがた嬉しくもありありがたくもあった。
ただ、あとに歌の本番が控えているので、講演はできるだけ声帯を疲れさせないように、謹訳源氏の朗読を主として、大声は出さないよう心がけた。歌の本番のほうは、『あんこまパン』全曲、プーランクの『子象ババールの物語』のナレーション、そして、なかにしあかね作曲、林望作詩『げんげ田の道を』のバリトン独唱版初演、さらにアンコールとして、嶺先生はじめ、会場も含めて全員の合唱で滝廉太郎『花』を歌った。
紫波町は、おりしも美しい秋景色で、田の刈り入れは済んで稲架掛けがそちこちにあり、ああ日本の秋だなあと満喫できた。ススキも美しく穂を出して秋風に揺れていた。
前日東京を発ったときは三十度の残暑であったが、夜現地につくと、なんと10度を下回る寒さで震え上がった。結局温度差二十五度にもなる厳しい気候の変化であったけれど、幸いに体調は大丈夫であった。
本番を終えて帰りは、夜の東北自動車道を疾駆して、夜中の二時半に帰京した。東京もすっかり小寒くなっていた。

2013年10月10日木曜日

白州の山荘売ります

わが愛する白州の家をついに売りに出した。まだ売れてはいないが、すでに何件かの照会が来ている。この家は、カナダ製のログハウスで、じつに居心地の良い家であるが、このほど、わが信念の「減蓄」の一環として手放すことにしたのである。あのサントリーのウイスキー工場のある山梨県北杜市、甲斐駒が岳の山麓にあり、あたりは美しい落葉広葉樹林である。そのため、春は新緑がむせ返るようで、夏は緑陰の風涼しく、秋はまた錦秋の色も彩に、風景と空気は、なんとも言えない良いところ、室内にはドイツ製の薪ストーブがあって、これに太い薪をくべていわゆる炉辺談話をするのは、とても気持ちがよい。ログハウスというのは、さすがに木の徳で、つねに木の香が満ちているから、たとえばずっと閉め切ってあってもカビ臭いなんてことはまったくない。すべてフローリング。この家を売るのは、ほんとうに寂しいけれど、なんとかして良い人に買ってほしいと念じている。土地の広さは約270坪ほど。建物の建坪は30坪ほどの、割合に広々とした家である。一階には16畳ほどのリビング、10畳ほどの寝室、そしてキッチンなどがあり、二階には六畳ほどの寝室が二つある。そうしてご覧のような広いウッドデッキがあって、ここは屋根に守られているので、少しも傷みがない。夏などは緑陰の涼風を感じながらこのデッキでお茶をするのは、えもいわれぬ気持ちよさである。
このサイトををご覧のかたで、もしリンボウ愛惜のこの山荘を買いたいという方があれば、ぜひわがHPまでお知らせを乞う。おそらくもうしばらくする内には売れてしまうであろうとおもうのであるが・・・。

2013年10月1日火曜日

野の秋

まことに長々のご無沙汰にて、申し訳ありませんでした。八月の末に『謹訳源氏物語』の完成祝賀会を東京会館で開催し、そのご報告をここに出すつもりでいたところが、猛烈ないそがしさのために取り紛れ、ついに時宜を逸してしまいました。
祝賀会は、観世流お家元観世清和師の仕舞『源氏供養』ならびに祝言付謡「四海波」に始まり、鹿島茂さん、千住博さん、三浦しをんさん、そして元新潮社の名編集者として名高い柴田光滋さん、また平凡社の名編集者であって『イギリスはおいしい』の生みの親であった山口稔喜さん、声楽家の嶺貞子さん、国文学者の長谷川政春さんと、各界からのご祝辞をいただき、また、テノールの勝又晃さんと、ソプラノの鵜木絵里さんに、ヴェルディのトラヴィアータから、有名な乾杯の歌を歌ってきただきました。乾杯の音頭は俳人の西村和子さんが取ってくださいました。まことに和気あいあいたる、そして中身の濃いお話ばかりの、楽しいひとときでありました。最後には私もつい調子にのって、勝又君と二人で、自作の訳詩による『アロハオエ』のデュエットまで披露してしまうという、破天荒なる祝賀会となりましたが、皆さん楽しんでくださったようです。
さて、その後はまた、原稿書き、次の本『イギリスからの手紙』の原稿整斉、さらに立て続く講演と席の温まる暇のない毎日を送っています。
さるなか、北九州の苅田町へ、恒例の講演をしにいってきました。
同町の市民カレッジの名誉学長を仰せつかっている関係で、毎年秋に講演をしにいきます。ことしは『謹訳源氏物語を書き終えて』と題して、源氏の話をしてきました。
翌日は、一日空き時間を作って、苅田町から行橋市にかけて、海沿いの田園を逍遥してきました。沓尾漁港、八津田、浜の宮、そして豊前松江、宇島のあたりをと往きこう行きして、美しい田園の景色をたのしんできたのでした。
掲出の写真は、その八津田のあたりの無名の野の景色です。これぞ日本の秋、というすすき野の景色は心和むものがあります。さすがに、このあたりはあの嫌らしいセイタカアワダチソウも見当たらず、すすきと彼岸花が盛りの色を見せていました。ああ、日本の秋は美しいなあ。どうぞ、写真をクリックし、拡大してご覧ください。